左官・漆喰壁のつくり方

職人の手仕事で世界にひとつしかない表情を生み出す左官や造形。一方で、設計者さんやお施主さんにとっては、「使いにくい素材」と思われてしまうこともあります。左官仕上げや造形をどのように提案すればいいのか、導入するにあたって気をつけることなど、素材の魅力を熟知している一級建築士、建築工房時温代表の渡辺亜利さんにお聞きしました。

八幡工業代表 八幡俊昭、専務取締役 八幡吉彦、担当デザイナー 谷梨夏を交えて、漆喰の魅力、モルタル造形の魅力について語ります。

素材選びのポイントとは?

–渡辺さんは、住宅を設計するとき、どのように壁や床などの仕上げを選んでいるんですか?


渡辺

そうですね、お施主さんの家族構成や住み方、好みや感性をヒアリングして総合的に判断しています。たとえば小さいお子さんがいる場合、当たっても痛くないものを選んだりだとか、汚してしまうことを心配するお客様も多いので、汚れてもそれが”味”だと感じられるかどうか、好みの部分の見極めもしています。

吉彦

家族構成は聞けばわかると思いますが、感性や価値観といった目に見えないところは、どのように引き出すんですか?

渡辺

そうなんですよね、目に見えない部分なので好みを聞き出すのは難しいんですけど、私の場合は、自社のショールームを実際にお見せして探り出すことが多いです。

建築工房時温のショールーム

渡辺

実際にショールームを見てもらうと、雰囲気を楽しみたいのか、それともリアルな手触りや温もりを感じたいのか、といったことがわかるんですよね。住まいの中でどこにメインを置きたいのか、見極めてから仕上げを提案しています。


–漆喰を提案することもあるんですか?


渡辺

そうですね、リビングや寝室など、生活の中で多くの時間を過ごす場所にはよく提案しますよ。漆喰には調湿効果や消臭効果があるのでいいんですよね。実はうちの事務所にも使っているんですよ。漆喰を塗っていると、焼肉をしても臭いが残らないんです(笑)。次の日事務所にきても、「あ、爽やか」みたいな(笑)。

あとは、”雰囲気”を出せるのもいいですね。照明が生み出す陰影や温かみさらには落ち着きなどは、クロスでは出せない部分でもあると思います。

吉彦

なるほど。たしかに、漆喰だからこそ実現できることもたくさんありますよね。クロスのような、誰が施工しても同じ仕上げになるものは提案しやすいと思います。

一方で、漆喰のような職人の手仕事でテクスチャーが変わる素材は、提案しにくいと思うこともあるのですが…。

渡辺

そうなんです。私は漆喰を提案する場合、あとで大幅な変更にならないよう、事前に1mほどのパネルを作ってお客様と擦り合わせます。

大きい面になるだけで、やはりお客様から見ると違うそうなんですよ。小さいサイズのサンプルだと、実際にどのような仕上がりになるのかイメージしにくいですよね。

吉彦

たしかに、大きなサイズで見ることでイメージがすごくつきやすくなると思います。好みや感性は、なるべく実物に近いサンプルをもとに共有するんですか?

渡辺

そうですね。たとえば同じ「かわいい」でも、男性が「かわいい」と思う基準と女性が「かわいい」と思う基準が異なるように、「かわいい」の捉え方は人によって異なりますよね(笑)。

あらかじめイメージをお客様と共有しておくことは大切だと思います。感性の部分を共有しておくことで、あとあと「やっぱりこっちに変更したい」といった、意見の相違が少なくなるんです。

俊昭

どれだけお客様と感性の共有ができるかが、設計において大きなポイントになるということですね。

漆喰の魅力を語る

–渡辺さんにとって、漆喰の魅力とは何だと思いますか?


渡辺

まず挙げられるのが機能面ですね。漆喰の場合、自浄作用があるのは大きな魅力だと思います。

吉彦

たしかに、自浄作用は優れています。弊社で実験したのですが、万が一コーヒーをかけても、1年くらい経つと自然に消えてしまうのには驚きました。外壁に使ったときは、雨だれの跡も、雨が降らないといつのまにか消えているんですよ。

渡辺

家の外壁に採用したときには、お客様にすごく喜ばれました。その白さに魅了されて、自分の家に帰るのがいつも楽しいらしいですよ(笑)。

俊昭

うちに来たお客様にも、「ここの空気はいいですね」とよく言われます。私たちは毎日いるのでなかなかわからないのですが(笑)。最近では、ヨガ教室なんかにも使ってもらっています。

吉彦

ヨガ教室やフィットネスなど、湿気のある場所では調湿効果が働くので、漆喰や左官はすごくおすすめだと思います。

俊昭

私はこれまでたくさんの左官材を見てきましたが、漆喰は魅力的です。とくにスイス漆喰は、少なくとも5本の指には入るかな。日本の漆喰の場合、糊が入っていることもあってか、コテの運びが重くて動きが遅いんですよね。スイス漆喰の場合、動きがスムーズで塗りやすいので、素人さんでも簡単に塗れちゃいます。

建築工房時温ショールームに施工された漆喰

渡辺

あとはスイス漆喰を使うと、機能面だけでなくテクスチャー面でも喜ばれます。リフォームなどの場合、ペンキで塗られた場所を漆喰で塗り直すだけで、室内の雰囲気がガラッと変わるんですよ。

吉彦

そうですね、テクスチャーといったデザイン面も、漆喰ならではのよい部分として挙げられます。たとえば同じサンプルでも、職人によってまったく異なるものができあがってくるんですよね。世界にひとつしかない、いわばアーティスティックな仕上げになることも大きな魅力です。

八幡工業だからできる対応

–八幡工業と渡辺さんがはじめてご一緒したのはいつですか?


吉彦

たしか2~3年前の住宅の外装がはじめてでしたよね。

渡辺

はい、そのときは工務店さんを通してサンプルを作ってもらいました。最初に私の方でラフを描いたんですが、あとは全面的に八幡さんにおまかせしましたね。説明がわかりやすく、信頼できるパートナーだとそのとき感じました。

吉彦

そう言っていただいてすごく嬉しいです。お客様に提案するときは、サンプルを使って提案されたのですか?

渡辺

はい、そうです。ただ、サンプルも大切ですが、まずは機能性の面からお伝えしました。お客様は、基本的にずっとその場所で暮らしていくことになるじゃないですか。となると、なかには抵抗するお客様もいらしゃるんですよね。

さらに、汚れたときにどうすればよいのかの対処法や、「画鋲は刺せるのか」「絵は描いてもいいのか」など、許容範囲について聞いてくる方も多いです。

サンプルももちろんよかったですが、八幡工業さんからこうした機能面についてもしっかり教えてくださったので、パートナーとして非常にやりやすかったです。

俊昭

画鋲を刺しても穴は埋められますし、基本的にはなんでもできちゃいます。太い釘なんかを刺したあとは、谷さんに頼めばすぐに直してくれますよ(笑)。

–ほかにも、八幡工業の対応でよかったなと思う部分があれば教えていただきたいです。


渡辺

サンプルをいっぱい持ってきてくれるなど、柔軟な対応力は大きな魅力だと思います。

また、個人的にはパースを作成していただけるのも非常に大きかったですね。パースがあれば、絵をもとに簡単に説明できるじゃないですか。できあがりのイメージに関して相違がなくなるので、こちらとしても安心につながりました。パースも含めて、八幡工業さんの仕事には、妥協のない職人さんならではの心意気が感じられますね。

俊昭

ありがとうございます。2~3人でやっている左官屋さんだとできないようなことでも、うちであればパースも含めて柔軟に対応できると思います。

渡辺

あとは、ショールームがあるのも八幡工業さんならではですよね。実際に現物が見れる部分にも魅力を感じます。

俊昭

弊社では、仕上がりイメージがつきにくい設計者さんやお施主さんのためにショールームを設けているんですが、実際に見ると「あ、こうなるんだ」と納得して帰られることも多いです。現物を見ることで、お客様はイメージがよりつきやすくなると思います。そういえば、渡辺さんも見にいらっしゃいましたよね。

渡辺

はい、パスタを食べながら見させていただきました(笑)。ショールームに併設されているカフェも居心地がよかったです。

モルタル造形の魅力とは?

–渡辺さんは、今回ショールームにモルタル造形も取り入れられましたよね。なぜ、モルタル造形を取り入れようと思ったんですか?


渡辺

お客様がモルタル造形のイメージをなんとなくわかっていても、実際にどういうものかわからないということもあり、なかなか受注につながらなくて…。こうなったら目に見えて触れられるところに作ろうと思い、トリッキーなものと、お客様が取り入れやすいものをひとつずつ取り入れてみました。

吉彦

実際に進めるときはパースを使って進めましたよね。

渡辺

そうですね、まずはラフにイメージを描いて、あとは電話でのやり取りの中でお伝えしました。実際に八幡工業さんと打ち合わせをしたのも、わずか1度か2度ほどでしたね。見て「これはいい!」と気に入って、すぐにOKとなりました。

渡辺さんから依頼を受けてからは、いただいた画像をもとに、似たようなイメージを検索しました。あとは本を調べて、資料を頭の中に集めて描きましたね。たまたま『ホビット』という共通の映画を観ていたので、渡辺さんのイメージする世界観がよくわかりました(笑)。

渡辺

絵に関しても、たしか1発で描きましたよね。

絵に関する資料を数百枚と見て、実際に描くのは1枚だけでした。渡辺さんからOKをいただいたあとは、みんなで相談しながら、場所によって扱いやすい素材を選択した感じです。

渡辺

完成したときは、まさにそのままのものができあがったので、非常に驚きました。お客様も、「なんだこの空間は」と驚いて感動されますね。「何でできているんですか?」という話から入って、「本当の木ですよ」とか冗談を言いながら(笑)。なかには「写真を撮ってもいいですか?」と聞いてくる方もいらっしゃいます。

一般の人でも取り入れやすいようモルタル造形に漆喰を被せている
映画『ホビット』にインスピレーションを受けてつくられたモルタル造形

吉彦

それはすごく嬉しいです。

渡辺

雰囲気も含めて本当にお客様の評判がいいんですよね。こうしたモルタル造形を、おしゃれ空間の演出に活かしたいと思っています。

俊昭

設計者さんの中でも、「漆喰のよさ」と「モルタル造形のおもしろさ」を組み合わせるアイデアを持っている人は少ないと思います。そして、その組み合わせができるのが渡辺さん。漆喰とモルタル造形をの両方を組み合わせられるのも、八幡工業ならではの強みだと自負しています。


–今後、渡辺さんがやってみたい素材や仕上げはありますか?左官に限らず、素材に対する考え方についてお聞きしたいです。


渡辺

そうですね、半永久的に残る素材を使いたいですね。漆喰の場合、最初にお見積もりを出すと、お客様の中には「高いな」と感じる方もいらっしゃると思います。ですが、時間が経過して愛着が湧くことで、「すごくいい買い物をしたな」と感じる。そうした、”一張羅”のようなものを住宅の中に持ってほしいなと思います。

俊昭

”一張羅”という言葉は非常にいいですね。漆喰は、住宅の中だと200年はもちます。そういった意味では、左官には渡辺さんの「長く使える理想」がつまっているのかもしれませんね。

お話を聞かせてくれた人

建築工房時温 代表 / 渡辺亜利さん

建築工房時温 代表 / 渡辺亜利さん

一級建築士/日建学院講師/福祉住環境コーディネーター二級
https://www.sakura-workworks.com

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