土を使わない版築
いつもご閲覧いただきありがとうございます。
暑さよりも寒さのほうが耐性のあるタ口です。
今回は塗り版築の施工事例を紹介します。
ご依頼いただいたのは世田谷区にお住まいのSさま。
ダイニングのひと壁を版築にしたいというものでした。
型枠へ土を流し込み、上から押し固めて何層も積み重ねる技法、版築。
そこから派生した塗って版築に見せる技法“塗り版築”は、その薄さと手ごろさから昨今のニーズに適応した左官と言えます。
「一目惚れした壁がある」
と紹介いただいた飲食店へ伺うと、壁も腰壁も柱も塗り版築。
圧倒されました。これは、惚れます。
テクスチャの参考にするため、食事をしつつ観察します。
おそらく店員さんらには壁を凝視するおかしな客に思われたことでしょう。
いざサンプル作成。
製品として展開されている塗り版築の実績はある弊社ですが、前例のないタイプでしたため一からエスキースします。
ときには吉彦専務宅を被験体にします。
壁と同様スイス漆喰のニッチもすてきでしたが
手応えアリ。以降も試作を重ねてゆきます。
空間のアクセントにもなるので、壁一面までは手を伸ばせなくても塗壁に興味があるお方は必見です。
完成イメージ図。
・ペンダントライトとダウンライトの移動
・エアコン配線の格納
・天井ボードの張り替え
・天井柱のクロスの張り替え
をご一緒にご依頼いただきました。
大工、電気、クロス、そして左官、4業者が絡む工事となりました。
工事初日、お客さまと、大工の小川木材商店さん、電気屋のクサマデンキさんと照明器具の位置を打合せします。
顔馴染みのあるメンバーなので円滑に作業が進められます。
配線格納時に壁内部を確認、既存クロス含め問題がなかったため上から施工することにしました。
2日目、クロス屋さん。
パテ処理からスピーディに施工くださいました。
3日目、いよいよ左官屋。
防水紙とラスをタッカー留めし、上塗りの食いつきを向上させるためモルタル下地に櫛引をします。
担当は造形チームたにさんとタロ。
塗り版築物件としてはじめてモルタル造形を採用しました。
版築なのに土を使わないのです。
4日目、吉彦専務とひぐちさんが上塗りをします。
八幡工業オリジナルブレンドでモルタルを土風に。
追っかけで造形、版築のように魅せてゆきます。
土の場合、経年変化で退色しポロポロと崩れ強度が落ちることが懸念されていましたが、モルタルにすることである程度カバー。
強固のままゆったりと経年変化していきます。
鏝で押さえたあと、最後にスポンジで優しく回し撫でます。
鏝では出せない土らしい自然な風合いになるほか、鏝から鉄分が移り酸化することを軽減させます。
完成。クロスからの厚みは25mmで収めました。
モデルを参考にしつつ、八幡工業らしいテイストに。
堆積の境界線に切り込みを入れ、厚みがあるように仕上げました。
土らしい粘り気を感じさせるダマは押し込みではなく彫刻なので落ちる心配もありません。
照明器具を再設置。
左官に理解ある電気屋さん、壁にひとつもヒビを起こさずエアコンを取り付けてくださいました。
後日、乾き具合を確認しにご訪問。
こちらのほうが画になるから、とダイニングテーブルに代わってラウンジチェアが置かれていました。
読書するにも晩酌するにもいいですね。
お手入れの行き渡ったすてきなガーデンを望む良い壁ができました。